食を選択できる時代へ ─ インバウンド回復に向けたフードダイバーシティの可能性
■インバウンドの回復状況
新型コロナウイルス感染症の規制が緩和され、最近では街中やニュース、情報番組でも帰省や国内外への旅行を楽しむ人々の様子をよく見かけるようになりました。日本政府観光局による2023年6月の訪日外国人数の推計は3年振りに200万人を超え、低迷していたインバウンドも回復傾向にあります。訪日客数では韓国、中国、台湾といったアジア圏がトップを占めていますが、アメリカ、カナダ、メキシコ、オーストラリアなど、さまざまな国と地域で2019年と比べて上回り、コロナ前の8~9割程度の水準まで戻ってきているようです。(※1)。
そんな中、さらなるインバウンド回復を促進するためには、日本が多様な国と地域の人々にとってよりニーズに応え、満喫できる環境であることが望まれるのではないでしょうか。
■フードダイバーシティの考え方とは
近年、あらゆる場面で多様性が求められるようになり、その一環として、“食”においても多様な食生活が尊重される「フードダイバーシティ」の考え方が注目されています。フードダイバーシティとは、フードダイバーシティ株式会社が『世界で様々ある”食事ができない・しない理由”を理解し、尊重し、全員が笑顔で同じ食卓を囲むことができる状態や、そのために行うべき配慮(※2)』と定義づけている言葉です。
以下はフードダイバーシティの対象となる食生活について、フードダイバーシティ株式会社がまとめた 早見表です(※3)。
※3 出典:フードダイバーシティ株式会社 「【今さら聞けないフードダイバーシティ基礎情報まとめ】 ハラール(ハラル)とは?ベジタリアンとは?ヴィーガン(ビーガン)とは?素食とは?」
フードダイバーシティの考え方において理解すべき”食事ができない・しない理由”には、代表的なアレルギーや宗教上の事情だけでなく、主義や病気によるものなどさまざまな要因があります。また、それに応じた食事内容も細かく分類されています。中でも、「ベジタリアン」「ヴィーガン」といった言葉は、日本でも見聞きする機会が増えているのではないでしょうか。
■飲食店に求められるフードダイバーシティ対応
実際に私自身も小麦が体質に合わないと気が付いてから、小麦に含まれるグルテンを避ける「グルテンフリー」を意識した食事を心掛けています。最近ではSNS上の投稿や書籍でさまざまなグルテンフリーのレシピが紹介されているため、米粉やアーモンドプードルなどを代用してお菓子やパンを作ることもできます。
ただし、外食に関しては困る場面があります。例えば友人と外食する際、パンやパスタなどがメインのお店に誘われると少し悩みます。私は酷いアレルギー症状はないため、時々は小麦製品も食べますし、日常生活に支障はありません。しかし、食物アレルギーを持つ人や宗教的な事情で特定の食物を口にすることができない人は、外食できる飲食店の選択肢がどうしても狭くなります。
食品の制限を始めるまではあまり気に留めていなかったことですが、好きなものや食べたいものを自由に選択できないと外食の楽しみは大きく損なわれてしまいます。日本にフードダイバーシティ対応の飲食店が増えれば、より多くの人々が外食を楽しめるでしょう。それは国内在住者のみならず、インバウンド(訪日外国人旅行者)にとっても同様に言えることです。
以下のグラフは観光庁の訪日外国人消費動向調査による、「訪日外国人が訪日前に期待していたこと」についてのアンケート結果です(※4)。
※4 出典:国土交通省 観光庁 「訪日外国人の消費動向2022年 年次報告書」(2023年発表)
グラフを見ると、「日本食を食べること」という項目が最も高い割合を示しており、訪日外国人旅行者が日本の食に大きな興味と関心を抱いていることが分かります。2018年の観光庁の試算によれば、年間訪日ベジタリアンおよび同様の食事制限を持つ旅行者数は約145~190万人程度で、飲食費は約450~600億円程度と推計されています(※5)。新型コロナウイルスの影響でインバウンド事業が低迷していましたが、食に関する事業に注力することが重要な手がかりになるでしょう。そうなると、フードダイバーシティへの対応が欠かせなくなります。
アレルギー特定原材料や動物性食材を使用しないメニューを提供する飲食店は日本国内でも増えてきましたが、アレルギーやベジタリアン、ヴィーガンなどに完全に対応した飲食店やメニューはまだごくわずかです。先述の観光庁の調査によれば、ベジタリアン対応飲食店の価格が非対応の店と比べて「高い」「やや高い」と感じる訪日外国人が半数以上を占めており、国内の飲食店業界にフードダイバーシティがまだまだ浸透していないことが分かります。
■インバウンド回復に向けた課題
インバウンド回復に向けた日本の飲食店業界の課題をフードダイバーシティの観点から考えてみると、以下のような内容が挙げられるのではないでしょうか。
- フードダイバーシティについての理解と知識の深化
- 対応メニューの開発および増加
- 安定した提供価格を目指す
- SNSを用いた効果的な情報提供
特に、宗教上の事情やアレルギーなどに配慮した料理については慎重に取り組み必要があります。まずは、フードダイバーシティについての知識と理解を深めるために、セミナーや研修を検討するのも良いかもしれません。また、観光庁の調査によれば、訪日外国人のベジタリアン対応飲食店の情報収集方法として、地図サイトやSNSを利用する割合がガイドブックや雑誌・チラシなどの紙媒体よりも高いことが分かっています。したがって、フードダイバーシティ対応メニューを提供する飲食店は、SNSやWEB上で情報を発信することが効果的です。
新型コロナウイルス感染症の規制がやっと緩和されつつある今、インバウンド回復は大きな課題となっています。元より注目されてきた日本の食文化がフードダイバーシティに適応できれば、インバウンド事業の成功へ大きく前進することができるのではないでしょうか。
フードダイバーシティ対応に関する取り組みの一環として、告知活動だけでなくメニュー開発や商品開発など、朝日広告社がお手伝いできることがあれば、お気軽にご相談ください。
※1 出典:やまとごころ.jp 「【訪日外国人数】2023年6月訪日客数207万3300人、 上半期で1000万人超。8カ国・地域で2019年比プラス」(2023年発表)
※2 引用:フードダイバーシティ株式会社 『「フードダイバーシティ」という言葉の使用に際して』
※5 出典:国土交通省 観光庁「飲食事業者等におけるベジタリアン・ヴィーガン対応ガイド」(2021年発表)
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TEXT BY コミュニケーションデザイン本部 S
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